センターの概要 Center overview
若手研究者の新たな道
〜 ポスドクという選択 @GNRC 〜

福田 真佑 先生
山梨大学医学部看護学科出身。大学卒業と同時に千葉大学大学院医学薬学府修士課程・博士課程に進学し学位を取得。獨協医科大学埼玉医療センター勤務を経て、2017年4月から現職。
PDとしてGNRCに入ろうと思った理由を教えて下さい。
中学生のときに父を悪性リンパ腫で亡くしたことがきっかけで看護師の道に進みました。一方でずっとがんの正体について興味があり研究したいと考えていたので、大学卒業後は大学院に進学して小児がんの基礎研究に従事しました。その後、看護師として臨床経験を積みたいと思い就職したのですが、日々の勤務の中で、目の前の患者さんに起きている問題を解決するためには看護研究の視点やメソッドを知る必要性を強く感じることが度々ありました。そんなときに真田弘美先生にお会いする機会があり、GNRCが新設されること、GNRCのPDは看護のメソドロジーを学びながら看護の基礎研究ができることをお聞きしました。お話を伺った瞬間、まさにこれは私が求めていた道だと確信(笑)。大学院で得た知識や技術を看護研究に活かしながら看護研究を幅広く学べるなんて、GNRCのPDになるしかないと思いました。最低5年間は臨床経験を積むつもりで就職しましたが、今はGNRCのPDとして、患者さんのニーズを満たす研究成果を出すべく日々奮闘しています。
2017年度PDとしての目標は何でしたか?
一つ目は、研究するための科研費を獲得することで、現在申請中です。二つ目は、2報の英語論文投稿です。臨床研究と基礎研究に取り組んでいるのですが、それぞれ年度内に1報ずつ投稿するために現在準備を進めています。三つ目は、ポスドクセミナーに出席して単位を取ることです。ポスドクセミナーは全て出席し、海外招聘教授の特別セミナーや質的研究・量的研究セミナーなど看護研究のメソドロジー幅広く学んでいます。
先生の研究を教えて下さい。
テーマ「振動刺激による糖尿病足潰瘍の治癒促進メカニズムに基づく新たな創傷被覆材の開発」
- 内容:
- 糖尿病の合併症の一つに糖尿病足病変があるのですが、一度発症した糖尿病足病変は重症化・再発しやすく最悪の場合には下肢の切断に至ります。なぜなら糖尿病による神経障害や高血糖によって患者さんは足の感覚が低下していたり易感染状態になっているので、足に出来た些細な傷に気づかず、放置された傷は悪化して潰瘍化しやすいからです。これまで真田研究室では振動には褥瘡治癒促進効果があり、そのメカニズムとして、振動による血管拡張作用をもつ一酸化窒素の合成促進を明らかにしてきました。
実は近年、糖尿病足潰瘍においても振動は治癒促進効果を持つことが判ったんです。難治性で悪化しやすい足潰瘍がなぜか振動を当てると治ってしまう。不思議だと思いませんか?病態的に糖尿病では一酸化窒素の合成が抑制されているので、振動による糖尿病足潰瘍治癒促進効果のメカニズムは、褥瘡とは異なるメカニズムであると考えられます。そこで、創傷治癒過程において主要な働きをする角化細胞や線維芽細胞に発現する機械刺激受容器の一つであるインテグリンに着目しました。振動刺激によりインテグリンを介した細胞間の接着反応が起き、細胞内においてインテグリン下流シグナルの活性化が起きるという仮説のもと、実験を進めています。この研究によって作用機序が明確な振動機能付ドレッシング材を開発して、ADLが自立していることが多い糖尿病患者さんがいつでもどこでも足の傷をセルフケアできるようにすることが最終的な目標です。
テーマ「振動刺激による糖尿病足潰瘍の治癒促進メカニズムに基づく新たな創傷被覆材の開発」
- 内容:
私は週に1度、東大病院の糖尿病足外来で糖尿病患者さんのフットケアに携わっています。日本では2008年に糖尿病フットケア指導管理料が定められ、多くの病院で糖尿病足病変ハイリスクの患者さんに対して、多くの医療機関でフットケアが行われるようになりました。これまで海外において、フットケアの教育介入は足潰瘍発症予防に効果的であるとの報告がある一方で、教育介入による予防効果はないとの報告もあり、フットケア教育による足潰瘍発症率やその要因について十分な検討がされていない現状があります。特に日本国内において、フットケアによる個別の教育的・予防的介入を受けた患者の長期間にわたる足潰瘍発症率に関する報告はありません。そこで、東大病院の糖尿病足外来でフットケアを受けた患者さんの10年間にわたる足潰瘍発症率とその要因を調べて、糖尿病足潰瘍発症の危険因子を明らかにし、足潰瘍予防方法を改善することを目的として、現在カルテ調査を進めています。
GNRC(この一年)で学んだことを教えて下さい。
GNRCの各種セミナーでは、自身の専門外の看護研究や方法論を学び、看護研究の新しい側面を知ることができたことで看護研究の奥深さや面白さに気づくことができました。普段、基礎研究をしている私にとって、質的研究セミナーや量的研究セミナーの内容はとても新鮮で、看護研究をすすめる上での患者さんや家族へのアプローチ方法や家族の在り方・支援の仕方について考える機会となりました。日々の研究においては、メンターである真田先生や上司である大江先生からは、どこまでも患者第一、臨床現場のための研究をするリサーチマインドや、決してあきらめず妥協せず最善を尽くす研究姿勢を学びました。また、GNRCの特色である異分野融合型研究を経験でき、よりよい看護ケアの創出という一つの目標に向かって、一緒に研究させていただいた生物学研究者や工学研究者、臨床看護師からはとても刺激を受け、複数の視点を持って研究していく重要性を感じました。イギリスやシンガポールの研究者と国際共同研究に携わる機会も頂き、日本の看護技術を世界に発信するには、常に世界に目を向けて世界の看護を知ることの大切さを学んだと同時に、環境や価値観の異なる国同士が看護を共通言語としてコラボレーションできる喜びを体験することができました。
これからPDを目指す若手研究者に向けてメッセージをお願いします。
私はGNRCでPDとして看護研究のメソドロジーを学び、常に臨床現場と密接にリンクした看護研究に専念できることに幸せを感じています。GNRCにはあらゆる専門分野の研究者がいてニーズオリエンテッドな最先端の異分野融合型看護研究を経験することができます。また、海外の先生方や研究者との交流の機会が多く、日本の看護だけではなく、世界の看護を知ることができます。少しでも看護研究に興味があるのなら、ぜひGNRCのPDになることをおすすめします。きっとこれまでの看護研究の概念が変わり、看護研究の面白さを実感することができると思います!
福田先生の主な業績
Fukuda M, Takatori A, Nakamura Y, Suganami A, Hoshino T, Tamura Y, Nakagawara A. Effects of novel small compounds targeting TrkB on neuronal cell survival and depression-like behavior. Neurochemistry International, 97: 42-48, 2016.
※掲載内容は、2018年2月当時のものです。

